少しだけ私の前を歩く遥を、チラリと盗み見る。
その横顔は、至って普通で。
特別怒っているという表情でもない。
……いや、違う。
当然、怒ってはいるはずで。ただ、遥がそれを表に出していないだけだ。
今まで遥が大きく怒りを露わにして表に出したのは、私が別れ話を出した、あの時だけ。
あれ以来、彼とは口論にさえなった事がない。
いつも私が勝手に怒って、それを彼が受け入れて宥めてくれるからだ。
だけど今日の遥は、今までの遥と……少し違う。
優しく、責める事をしないのはいつもと同じだけれど、こんな風に遥から距離を置かれたのは初めてで。
……自業自得だ。
そう思った。
自分で遥を避けておきながら、いつもと変わらない遥がいると思っていたなんて、私はなんて浅はかで子供なんだろう。
先にエレベーターに乗って開けて待ってくれている遥が、私をチラリと見てすぐに視線を逸らした。
それだけで、私の中を後悔が駆け巡る。
───……いつだって、遥の方が私に溺れているように見えて、実際に溺れているのは私の方で。
こんな些細な事で、胸が詰まって苦しくなる。
目の淵に涙が溜まって来るのを、必死に零さないように堪えながらエレベーターに乗り込む。
遥の少し斜め後ろに乗り込んで、顔を少し上げた先に映る彼の背中に自分の中で限界を感じて、遥のコートの袖をぎゅっと掴んだ。
それに気付いた遥が後ろを振り向く気配を感じて、私は顔を見られないようにすぐに俯いた。