遥のその表情を見て、自分が何をしたかったのかが一瞬で分からなくなった。

ずっと怒りを抱えていたつもりでいたけれど、途端に怒りは消えて罪悪感に感情が支配される。


───遥が、気にして少しは落ち込めばいい。
……なんて、思っていたけれど。


自分の方が、罪悪感で胸が締めつけられて苦しくなる。


「……ゴメ、ン……」


ポツリと呟くように言葉を漏らした私を、遥が少し目を瞠って見たかと思うと、次の瞬間には彼は穏やかに目を細めて笑い、そのまま黙って前を向いた。

信号が青に変わり、車を発進させながら遥が私の頭をポンポンと優しく撫でてくれる。


……今、遥に本当の事を聞かなきゃいけない。


そう思うのに───。


喉まで出かかった声が、そのまま外に出される事なく、また呑み込まれて行く。

今彼に問い詰めて、認めてしまわれたら───。

そう思うと、まだ……怖くて言葉にする事が出来ない。

怒りに任せて口にする事は簡単だけれど、冷静になってしまった今、余計な事まで考えてしまうから尚更だ。

そのまま無言になってしまった私に、遥は何も言わなくて。

こういう時の彼の優しさは……残酷だと思う。
無理にでも問い詰められた方が口にする事が出来るのに──。






***

暫くたっても、本当に遥は何も聞いてくる事はなく、終始無言のまま家まで辿り着いた。

でも、駐車場で車から降りてエレベーターへと向かう間、いつもの彼ならばすぐに私の手を握って来るのに、何故か今日は一定の距離を保ったまま歩いていて。

その彼の変化に、自分のした事は棚に上げて泣きたくなった。