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車に乗り込むのはかなり戸惑われたけれど、優香に見送られていては乗らないわけにも行かず。

彼女に小さく手を振りながら渋々乗り込んだ私を見て、遥が優香と一言二言何か会話を交わしてから頭を下げて車に乗り込んで来た。


───……一気に車内が気まずい空気に満たされる。


気まずさに耐え兼ねて、車の窓を開けてもう一度優香に手を振った。


───ああ。後部座席に座れば良かった……。


だけど今更そんな事を思っても、もう遅い。
運転席で遥が優香に軽く頭を下げながらそのまま車を発進させたけれど、車が走り出してすぐに運悪く信号に引っ掛かってしまい車が止まってしまった。


……最悪だ。


遥とこんな風に……気まずくなるようなケンカをした事は、今まで一度もない。

似たような状況であれば、一度だけあったけれど。
でもあれは、ケンカではなく別れ話だったわけで、気まずいのは当然で。

正直今は、自分が仕出かした事なのに、息を吐き出すのでさえ緊張してしまう始末だ。

窓の外を眺めながら細く息を吐き出していると、ポンッと頭を優しく撫でられた。


「……なっちゃん。何も言いたくないならそれでもいいから。無理には聞かない。だからそんなに緊張しないで?」


頭を撫でられた事で思わず遥の方を向いた私に、彼はネクタイの首元をクイッと緩めて、小首を傾げながら少し寂しげに笑った。