心底ホッとしたような声が真横から聞こえて、弾かれたように顔を上げると、優しく目を細めた遥と目が合った。


───どうしてそんなに、優しそうな顔で笑うの?


絶対、怒られても文句は言えない事を私はしたのに。

私を連れて帰ってから、冬香さんと会うから……?


そう思うと胸がギュッと苦しくなって遥から視線を逸らすと、彼は頭を撫でていた手を頬に滑らせて、私の左頬を優しく手のひらで包んだ。


「なっちゃん、帰ろう?」


遥の優しい声に、私は俯いて首を横に振った。

このまま帰ってしまっては、遥の思うツボだ。それに、もう意地になってしまっている自分もいて。

遥の言葉を、素直に聞く事が出来ない。


「……どうして?俺、何かした?」


平然と言われたその言葉に、一気にカッと頭に血が上る。


「嘘つき!どうせ、私を連れ帰ってからまた、出掛けるんでしょ!」


敢えて、“冬香さん”の名を伏せて叫んだ。
遥から本当の事を聞きたかったというのもあるけれど、何より私が彼女の名前を出す事によって、遥がどんな反応をするのか見るのが怖いからだ。