玄関先からは、やっぱり遥の声が聞こえて来て。

ギクリと固まったように、その場から動けなくなる。


……どうしよう。どんな顔して会えばいい?


ゆっくり玄関からリビングの方へと歩いて来る気配を感じて、ジワリと手に汗をかくのが分かる。

逃げ出したい感情を必死に押し殺して、正座をする膝の上でギュッと両手を握りしめて俯いた。

ドッドッドッドッ、と自分の心臓が早鐘のように鳴り響いて。


カチャリ───、と開いたリビングのドアに、俯いたまま全神経を集中させる。




「なっちゃん」




リビングのドアの入り口で、こちらの様子を伺いながら立ち止まったままの遥が、静かに私の名前を呼んだ。

その瞬間、ビクリと肩が震えてしまい、思わずギュッと目をつぶってしまった。


遥が私を呼ぶ声からは、なんの感情も読み取れなくて。

ただ静かに、遥がこちらに近付いて来る気配だけを感じる。


……どうしようどうしようどうしよう、怖い───。


遥は暴力を振るうような人ではないけれど、私がした事には怒っているかもしれない。

───だって、彼はまだ何も知らない筈なのだから。

私が同じ事をされたら……絶対怒る。だから遥も──。


そう思った瞬間、彼が私の側に跪く気配を感じて。

ビクリと肩を揺らして身体を固くすると、ふわりと優しく頭を撫でられた。


「……心配した」