駅のホームで電車を待ちながら、背の高いスーツの男性を見掛ける度に心臓がドキリと跳ねる。

ここまで遥からの連絡を無視し続けたのは、今回が初めてだ。
しかも、遥に黙って夜出掛けるのも、結婚してからは初めてで。

その罪悪感からか、遥に背格好が似た人を見ると、ソワソワと落ち着きがなくなる。

今の時間からして、いつもであれば遥はまだ仕事中な筈だ。
しかも、今立っている駅のホームはいつも乗る電車の反対のホームだから、遥がいる筈はないと分かっているのに、どうしても気持ちが落ち着かない。


ただ無視しているだけだけど……これは私にとったら、初めての大きな反抗で。



いや、反抗というよりは、無言の反撃だ。



こんな事で遥がヘコむとは思えないけれど、少しでもダメージを与えたいと思った。

自分でも……嫌な女だと思う。
だけど、───悔しくてたまらない。


だから、これ以上もう遥からの連絡を見なくても済むように、そっと携帯をポケットから取り出して、何も見ずに電源を落とした。

……これで、いい。
今日だけは、何も考えずに優香と楽しく過ごそう。

遥もきっと、冬香さんと会いたいんだろうし、と、そう思えば少しだけ気持ちが吹っ切れた気がして。

優香に急かされながらも、携帯をまたポケットに押し込んで電車に乗り込んだ。