「私はあの家で……愛人の子供ですから、当然疎まれる存在でした。何故、施設に入れてくれなかったんだろうと、父を恨んだ時もありました。けど、ハルちゃんだけは……ハルちゃんだけは、いつも私の側にいて、私を守ってくれた」


そう言って冬香さんが、ハンカチを握る手にギュッと力を込めた。




「……ハルちゃんを、私に返して下さい」




彼女の言葉に、少しだけ衝撃を受けた自分がいるけれど、ああ、やっぱり……と、思う自分が大半で。

でも同時に、彼女の傲慢な物言いに頭にカッと血が上る。


「……あの、失礼ですけど、それは遥の意思を聞いた上での言葉ですか?」


頭に血は上っていても、ここで冷静さを欠いてはダメだと、努めて静かに声を絞り出す。

私の言葉に、僅かに瞳を揺らして彼女が動揺する様が見えた。

……やっぱり。

私もまだまだ考えが子供だけれど、彼女はもっとだ。

なんだか一気にバカらしくなって来た。
大体彼女は、今まで留学していて遥と離れていたのだ。

それなのに、戻ってみると唯一自分の味方だった兄が結婚していなくなっていた。

だから、焦って取り戻そうと必死になっている。

子供が取られたオモチャを取り返そうと、躍起になっているのとなんら変わりはないように思えた。