もしかして冬香さんは、遥に相良の家に戻って欲しくて説得しようとしている……のかな。

そうだとしたら、それも私の中で“もしかして”と考えていたシナリオの一つだ。


……それはそれで色々思う事はあるけれど、そればっかりは遥が決める事なので、私からは何も言えない。

だけどそれが今日の話の主軸なのかな、と思ったら、自分が単純で笑えるけれどなんだか一気に脱力してしまった。

うん、それなら連絡取っていたとしても、遥を説得しようとしていたのだと思えば不自然に感じない。

一人で勝手に色々想像していた自分が恥ずかしいな、とジワリと頬が熱くなる。


「……遥とは、今の職場に遥が取引先の営業の後任として、挨拶に来た事で知り合いました」

「え、じゃあ……」

「私が出会ったのは、遥が相良の会社を辞めた後なんです」


私の答えに、冬香さんが一気に残念そうに眉尻を下げた。

その彼女の反応に、不謹慎にもホッとしてしまう。

やっぱり冬香さんが今日私に会おうと思ったのは、遥を説得して欲しいって事だったんだ。

きっと彼女は、遥から仕事や実家を遠ざけた原因が、私だと思っているんだろう。

あながち、間違っては……いないけれど。

だからか、彼女の落胆ぶりに少し胸がチクリと痛んだ。

私自身の“出会い”としては、嘘はついていない。
………ついてはいないけれど、やっぱり少しだけ良心が痛む。


遥が出会う前から私の事を知っていた事を、伝えるかどうしようか少し悩む。

だけど余計な事は言わない方がいいだろう、とすぐに口を噤んで彼女の返事を待った。