……何を、言われるのか。


そればかりが気になって、午前中は全然仕事に集中出来なかった。



色んな事を想像しては、搔き消して、を繰り返す。

例えば……遥は、冬香さんと兄妹だと言ったけれど、もしかしたら血は繋がっていないんじゃないか、とか。

思わず、溜息と共に苦笑いが零れる。
自分でもこんな事まで考えるなんて、漫画やドラマの見過ぎだと笑えてくるけれど、私の中でのもっとも最悪なシナリオの一つで。



だけど、想像して、怯えるだけ。



その後どう行動すればいいのかなんて、何も考えていない。

取り敢えず落ち着こうと、もう一口コーヒーを口に含んだところで後ろから声を掛けられた。


「すみません、遅くなりました」


ドキッと心臓が跳ねて、思わず椅子から腰を浮かせて立ち上がろうとすると、慌てて冬香さんが私の向かい側に走って来た。


「あ、そのままで!……すみません、自分から誘っておいて遅れてくるなんて、非常識ですよね。すみません」

「えっ、あっ……違います違います!私が早く来過ぎてしまっただけなので、冬香さんは約束の時間通りですよ!」


二人してワタワタと謝り合っている姿がなんだかおかしくて、ふと視線が合わさった時、お互い笑い合った。

だけど小さく深呼吸をした瞬間、彼女の香水の匂いがふわりと香って、一気に気持ちがズドンと沈む。



───……遥が纏って帰って来る香水の匂いと、同じだ。