遥に抱きしめられて、より一層罪悪感のような緊張が増す。

取り敢えず、見た事はバレてしまうけれど、さっきの電話の事は伝えなくちゃいけない。

必死に平静を装って、遥の反応に神経を集中させる。

「あ、さっきね、冬香さんから電話来てたよ。遥がお風呂だって伝えたら、また掛け直すって」


なんとなく、会う約束をした事は伏せる事にした。

多分、彼女も遥には言わない気がするから、バレる事はないだろう。

ドキドキと遥の反応をうかがっていると、


「そっか、ありがとう」


と、遥が私を抱きしめたまま、普通に返事をした事に思わず拍子抜けしてしまった。


「え、か、掛け直さなくていいの?」

「んー?別に?大事な用だったら、掛け直してって伝えてるはずでしょ?」


え、あれ?そんなもん?

遥の反応の薄さに、なんだか自分が妙な早とちりをしているんじゃないかって思えてきて、少し脱力してしまった。


「……ねぇなっちゃん。なんか少しタバコの匂いがする」


遥がギュッと私を抱きしめる腕に力を込めて、頬をくっつけてくる。

え?タバコ……?と、突然の話題転換に小首を傾げながら、あ!と思い出す。


「あっ、今日、営業の野島君と同行したから、それでかも。野島君かなりのヘビースモーカーで、車の中が凄い匂いだったから、」


私が最後まで言い終わらない内に、遥が鍋の火を止めて私の手を掴んで急に歩き出した。