……つい、勢いで会う約束までしてしまったけれど。


電話を切って暫くして冷静になると、なんだか堪らなく緊張して来た。


そもそも、なんで彼女は私に会おうと思ったんだろう……?


……どう考えても、嫌な予感しかしない。

遥の携帯を元の場所に置きながら、その手が途中で止まる。
ダメだ、と分かってはいても、彼女がどの頻度で遥かに電話をして来ているのか気になった。

今日はたまたま用事があって、掛けてきただけだったのかもしれない。

そう思いたいけれど。
……時間帯を考えたら偶然じゃない気がして。

メールまでを見るわけじゃない、から。
と、自分に言い訳をして、素早く着信履歴を開く。

ドキッと心臓が大きく跳ねて、焦りながらも指をスライドさせる。



───……毎日だ。毎日、彼女は同じ時間帯に電話をしてきている。



じゃあ、遥は……?

そう思って、発信履歴を開こうとした時、お風呂場のドアが開く音がして、慌てて携帯を元の位置に戻した。
だけど戻した後に、しまった、と青ざめる。

着信履歴を表示したままだ。

ヤバいっ……、見たのがバレちゃう……!

でももう、遥はこちらに来てしまう。
こうなったら素知らぬ顔をするしかない。だって遥は勝手に見てもいいと言っていたのだから、と必死に心に言い訳をしてキッチンに立って煮物のお鍋に火をつけた。


「なっちゃん次お風呂いいよー」


遥が頭を拭きながら、ダイニングに入ってくる。

「あ、うん」と返事をしながらも、ドキドキと嫌な汗が背中を伝う。
動揺し過ぎて、お鍋の煮物を菜箸で勢い良くかき混ぜた。


「なっちゃんなっちゃん、あんまり煮物はかき混ぜない方が良くない?」


遥が私の左肩に顎を乗せて、後ろからふわりと抱きしめてきた。