表示されている彼女の名前を見た途端、一気に様々な想像が脳裏を過る。

遥は今日、いつもより早い帰宅だった。

しかも最近残業が多い所為で、私との時間があまり取れていないからと、無理矢理仕事を切り上げて来たと言っていたのだ。



……本来ならば、今のこの時間ぐらいが、丁度遥の仕事が終わる時間帯だ。



私の中で、予想が──“やっぱり”──、と確信に変わる。


そう思ったら、もう居ても立っても居られなくなって、彼女とは一度面識があるからいいよね、と遥の携帯をそっと掴む。

遥に普段、勝手に携帯等を見ても構わないと言われてはいるけれど、勝手に電話に出るのは別かな、と一瞬戸惑った。

だけど別に、遥は今お風呂だから電話に出られない、と告げるだけなんだから平気だよね、と思い直してドクドクと震える指先で応答をタップして、急いで携帯を耳にあてる。


「……あ、も、もしもし……?」

『……っ』


私が喋った途端、電話先の相手が一瞬息を飲むのが分かった。

それだけで、嫌な予感が当たってしまったような、ゾワリと一瞬悪寒が走る。

だけど、雰囲気的にそのまま電話を切られてしまいそうだったので、思わず引き留めなければ、と必死に言葉を探す。


「あ、あ、あのっ、冬香、さん……ですよね?遥、今、お風呂入っていて……」


私がそう必死に声を掛けると、さっきまで電話口から少し焦りのような雰囲気を感じ取っていたのに、急に空気が変わった気がした。