「あ、お、お帰り!」


思わず駆け足になっていた私を、玄関で遥が少しギョッとした表情で見てくる。


「え、うん。……ただいま。どうしたの、なっちゃん?もしかして何かあった?」


遥が少し不安そうな顔で急いで靴を脱ぐ。

あ、そうか、といつもの自分を思い出して、恥ずかしさでジワリと頬が熱くなった。


「……な、何も、ないんだけど、その……、遥が帰ってくるのが待ち遠しくて、あの……、」


急に恥ずかしさが一気に増して、顔を俯けたままモジモジと喋っていると、何故か遥の反応がない。

不安に思って顔を上げると、遥が見た事もないくらいポカンとした顔で固まっているのが見えた。


「え、え……?なっちゃんやっぱり、何かあった?」


遥が心配そうに私に近付き顔を覗き込んで来たので、顔が真っ赤に染まるのが分かって、飛び退くように後ろに仰け反った。


「な、ななな何でもないっ!!ゴメン、今の忘れて!!」


慌てて首を振りつつリビングへ逃げようと遥に背を向けると、右腕を掴まれて、グイッと後ろへと引っ張られてしまった。


「う、わっ……!ちょ、遥、離し……」


ビックリして遥の方を振り向こうとすると、そのままギュッと後ろから抱きしめられた。

離してって言うつもりだったのに……ドキッと跳ねた心臓のせいで、言葉が紡げずに思わず黙り込んでしまう。


「ヤダ。なっちゃん今の、もう一回言って?」


私の耳元で甘く囁く遥の声に、またドキリと心臓が跳ねたけれど。

……先程心臓が跳ねた“出来事”の方が私の中ではより強く感じられて。

遥に抱きしめられている腕の中で、更にその“出来事”が“確信”に変わって行く事に自分が固まるのが分かる。



───……香水の、匂いがする。