最初は流石に冗談だと思ってしまったけれど、よくよく話を聞くと、彼の苦しみが痛い程伝わって来た。



――……遥は、日本の企業でもトップクラスに君臨している『相良財閥』の御曹司だった。



小さい頃から、上に立つ人間として教育を受け、眠る時間は疎か、トイレに行く時間さえも分刻みで徹底して決められていたらしい。

最初に話を聞いた時は、そこまで自由がない人間が今の日本にいるのかと驚いた程だ。

……だけど、相良財閥と聞けば納得も行く。
次々と大きな企業が傘下に入って行く、今や誰しも知らない人はいないくらいの巨大な独占企業集団だ。

今はまだ、会長と社長がご存命なので、彼らを支える役員の立場にいた遥は、正に仕事をする為だけの“サイボーグ”だったらしい。

今の遥からは想像もつかないけれど、会社の為なら汚い事にも率先して手を染めていたとか。


そんな彼が、私に出会った事で運命が変わったと言った。


今までの経歴を全て捨て、勿論実家とも縁を切り、私に近付く為に今の会社に入社したのだと教えてくれた。

正直そこまでされる程、自分に魅力があるとはとても思えなかったけれど、そう話してくれた遥はとても嘘を吐いているようには見えなくて、それが私が彼と結婚をしようと決めた決め手となった。