ストーカーだなんて、酷い言いようだとは思うけれど。

───事実、彼の私への執着ぶりは、ストーカー以外の何者でもない、と思う。





彼との出会いは、取引先であるメーカーの営業として、彼が私の会社へ前任者からの引継ぎで挨拶に来た時だった。

第一印象は、とにかく“綺麗”だと思った。

無造作に整えられた少し長めの黒髪に、綺麗な二重の意志の強そうな瞳、高い鼻筋に、少し薄めの整った形の唇。モデルかと思う程とにかく綺麗な顔をした男の人で。

名刺を差し出してにこやかに挨拶をする彼に、一瞬見惚れて頭が真っ白になった私は、慌てて挨拶を返した。
私の顔は、きっと首まで真っ赤だったと思う。



この時交わした会話は、一言二言だった。
だからまさか彼が、次の日会社の外で私を待ち伏せしているとは思わなくて、会社を出てすぐ声を掛けられた時は物凄く驚いた。

しかも、待ち伏せしていただけならまだしも、食事に誘われ、そのままそのお店で指輪まで出されてプロポーズされてしまったのだ。なんの冗談かと思った。

正直私はまだ社会に出たてだったし、絶対に詐欺だと思っても無理はない状況で。

その上、中学、高校、短大、と全て女子校だった私は、勿論交際歴も皆無だった為、結婚詐欺には持ってこいのカモなのだろうなと思った。


何しろ遥は顔が良いだけではなく、大手メーカーのエリート営業マンだった。人柄も愛想もとても良くて、歳は私の四つ上の二十六。何もかも完璧な彼が、私みたいななんの取り柄もない女に、しかも会った次の日にプロポーズまでするなんて、詐欺以外には考えられない。詐欺でなければ、不倫とか。

とにかく、絶対に騙されちゃいけない、と彼のプロポーズを即答でお断りさせてもらった。