あまりにも隣で遥が悲しそうにションボリするので、彼の方をチラチラと見つつ、恥ずかしさを押し込めて遥の左手をそっと握ってみた。

すると、遥が大きく目を見開いて驚いたような表情で私を見てくる。


「……て、手だったらっ!」


顔を真っ赤に染めながら早口で告げると、遥は物凄く嬉しそうに目を細めてふわりと笑った。

本当に嬉しそうに笑う彼に、私の心もじんわりと幸せに満たされて自然と顔が綻ぶ。


沢山───……沢山。


不安や怖い思いもしたけれど、やっぱり今は幸せだと思えるから、これで良かったんじゃないか……なんて、そう思えていたのに。



彼の“真実”に触れた時、そんな思いは容易く崩れ去るなんて……──この時の私はまだ知らない。






買い物を終えて、遥がベッタリと私の腰に手を巻き付けて歩きながらマンションに到着した時、エントランスにしゃがみ込んでいる女性が見えた。

気分でも悪いのかな、と少し戸惑って遥の顔を見上げると、何故か遥が目を見開き呆然と彼女を見つめている。


……え?
何……?知り合い、とか……?


妙に心がざわつくのを必死に抑えて遥に声を掛けようとすると、それよりも先に女性の声が私の声を遮った。


「ハルちゃんっ……!」


え?と、私が彼女の方を振り向くと、隣の遥がボソリと呟くように声を漏らした。



「……ふゆ、か……」