今日もいつもの如くドアの近くを陣取ってくれた遥は、少し遠慮がちにドア側に手をついて、私に触れないように腕で囲ってくれる。

これも別に構わないのになぁ、なんて思いつつ遥をチラリと見上げると、ジッと私を見下ろす遥と目が合った。


思いの外、無表情で見下ろして来る遥にドキリとしてしまう。


遥は私といる時は大概、嬉しそうにニコニコしているか、しょんぼり項垂れているかのどちらかだ。

だからこんな風に無表情な遥は見た事がなくて、なんだか妙にドキドキする。

怒らせてしまったんだろうか、というドキドキと、無表情だと遥の顔の端正さが際立って、ジッと見つめられている事に緊張でドキドキしてしまうのと、ごちゃ混ぜになって鼓動が変に速くなる。


すると停車駅で人が大量に乗って来たのか、遥の背中が押されて私の方へとグッと近付いて来た。



「ゴメン、なっちゃん大丈夫?」

「えっ、あっ……うん、大丈夫」



さっきよりも遥との距離が近くなってしまった事に、変にドキドキが加速して来た。


───……ああ、どうしよう。
なんでこんなに些細な事でドキドキするんだろう。


いつものようにベタベタ触れてこない遥に、なんだか逆に変に意識させられてしまい、ドキドキと心臓が忙しなく煩くて堪らない。

もう一度チラリと遥を見上げてみると、彼は外の景色を見ていたようで、少しだけホッとしつつもその綺麗な横顔につい見惚れてしまった。



こんなに全てが整った人が、私の夫なのだ。



───ダメだ。そんな風に思ったら、段々無性に胸がきゅんと高鳴って来た。


チラリと視線を下ろせば、遥のスッキリしたシャープな顎からネクタイを締めている首元にかけて、思わず大人の色香を感じてドキリとする。

それからドア側に付く手のコート、スーツ、ワイシャツの袖、更にはそこから見える腕時計をはめた手首。


全てが私の胸をキュウッと高鳴らせる。

ふと回りを見回すと、近くの女子高生やOLのお姉さんがチラチラと遥を見ているのが分かって、一気にモヤモヤしてくる。


少しムッとしつつ、もう一度遥を見上げると、今度は遥と目が合った。