「え、でもなっちゃん、」

「でもじゃない。ダメなものはダメ。もし約束破ったら、私遥と寝室別にする」


ピシャリと言ってのけた私を、遥が悲愴感たっぷりな表情で見つめつつ、しょんぼりと項垂れた。


「……分かった。でも、寝室別だけは絶対に嫌だ。そんな事になったら俺、枕持ってなっちゃんにしがみついて離れないから」


しょんぼりしつつも、そこだけは絶対に譲らないとばかりに遥がハッキリと告げて、しれっとマグカップを口元に運ぶ。


……まったく、守る気があるのかないのか。


彼の返答に小さく溜息を吐きつつ、だけど遥なら本当に枕を持って私にしがみついてそうだと思うと、少しだけ口元が緩んだ。




***


朝仕事に行く為に二人で家を出て、すぐに私を抱き寄せようとした遥の手が、私の腰辺りの空中で止まった。

チラリと彼を見上げた私を、遥が悲愴感溢れる表情で見つめつつ、ガックリと項垂れた。


笑っちゃいけない、と思いつつも、どうしても口元が緩んでしまう。


多分遥は私の言った、ベタベタの意味を全部だと思い込んでいるんだろう。

いつ人に見られるか分からない場所でキスされるのは困るけれど、別に腰を抱き寄せられるくらいは良いんだけどなぁ、なんて思いつつも、今の遥がなんだか可愛くてそのままにしておこう、とこっそり口端を上げた。


会社は二人とも方向は同じなので、毎朝同じ電車に乗る。
ただ、私の方が先に電車を降りるので、遥はいつもドアの近くを陣取ってくれて、尚且つ朝の通勤ラッシュに私が揉まれないように、自分の両腕で私を囲ってくれる。


本当だったら遥は車で私を会社まで送りたいようなのだけど、どうしても車だと道路事情的に遠回りになってしまう為、私が却下したのだ。