「……遥、分かっているとは思うけど、外ではベタベタするの禁止だからね?」


私の言葉に、驚いたように大きく目を見開いた遥が、若干震えているのではないかと思える手付きでマグカップをテーブルにそっと下ろす。


「な、……なんで!?」


彼の困惑した表情と、焦ったような口調で、あぁ、やっぱり分かってない。と、少し呆れた表情で遥を見上げた。


「……えーと、確か私、昨日散々言ったと思うんだけど。公共の場でベタベタされるのは死ぬ程恥ずかしいって」


そうなのだ。
家の中にいると、本当、四六時中と言っていい程遥は私にベタベタと触って来ては、最終的に押し倒される。

だから昨日は少しだけ解放されたくて、買い物に行きたいと言った私は、外に出て早々に大後悔した。


車の中で、信号で止まる度にキスの雨を降らせて来る遥に少し嫌な予感はしていたのだ。だけどまさか、スーパーの中でも周りに人がいない時に振り向いてはキスをして、顔を覗き込んではキスをしてくるなんて思わなくて。


それだけでも十分恥ずかしくて死にそうだったのに、挙げ句の果てにはレジのお兄さんに、「卵割れているので交換して来ますね」と言われたのでお礼を言うと、遥はお兄さんの目の前で見せつけるように私の頬にキスをして「俺が変えてくるね?」と微笑みながらお兄さんから卵を奪い取った。


……レジのお兄さんのあの、呆気にとられた表情と憐れみに満ちた視線がもう本当にいたたまれなくて。

半泣き状態で家まで帰ったのが昨日。


……あれだけ。
あ・れ・だ・け、切に昨日訴えたのに、全然分かってくれていないであろう遥の反応に、自ずと長い溜息が出る。


離れていた間の反動なのかな、と最初は全部受け止めるつもりでいたけれど、これは流石に公然わいせつ罪で捕まるレベルだ。