「今のは怒声じゃなくて、相良を褒め称えている相手の声」


嬉しそうに、そしてどこか誇らしげに笑った神崎社長の表情は、とても印象的で。

遥を部下に持った事を、というより、同じ職場で、一緒に仕事が出来ている現状をとても誇らしく思っている、そんな表情に見えた。


私の口元も自ずと弧を描いていると、遥が中国人同様、少し大きな声で中国語で話す言葉が聞こえた後、会議室からワァッと歓声が聞こえて来た。



───上手くいったんだ……!



嬉しさに隣の神崎社長を見上げると、彼は楽しそうに「さっすが相良。アイツやっぱスゲーわ」と破顔した。


その笑顔に、今の遥の周りにいる人達の温かさを感じて、胸がじんわりと温かくなる。


でも同時に、あ、と気付いてつい口元を手で押さえた。

今テレビ会議が終わったという事は、みんな会議室から出て来るという事だ。私の予定では、遥にこっそり会って差し入れを渡すだけのつもりだったので、なんだかこの状況で会うのが堪らなく恥ずかしく感じて、ついその場でオロオロしてしまう。

しかも勝手に出て来てしまった手前、やっぱり遥は怒るかもしれないと思うと、足が勝手にエレベーターの方へと向かっていて、その隣を神崎社長が楽しそうについて来た。


「ゴメンね夏美ちゃん。嫌がらせじゃないんだけど、今の時間帯はエレベーターも社員証がないと乗れないんだよね、ウチ」


ニヤニヤしながら言う神崎社長の言葉に、ハッと目を見開いて、そうだった……!と、エレベーターの扉を前に固まっていると───。


後ろから誰か駆けて来る足音と共に、ダンッ───と、エレベーターの扉へ向かって勢いよく神崎社長と私の間に腕が差し込まれて、思わずビクッと肩が上がる。