「相良はさ、やっぱ相良財閥にいただけあって、本当商談テクが凄いんだわ。特に今回の中国との商談は難しいって言われてて、相良を連れて行きたいって海外事業部の部長に何度も懇願されてたんだけど、でもアイツ奥さん命だし、奥さんの元を一日でも離れるなんて無理って聞かなくてさ」


途端に神崎社長が少し意地悪な笑みで見てくるので、ジワリと耳が熱くなった。

遥が仕事の出来る人だという事は勿論知っていたけれど、そうやってみんなに頼りにされている事を直に聞くと、なんだか私まで嬉しくなる。


「で、結局相良の元部下と同行したんだけど、商談のツメが甘かったんだろうね。今頃になって契約は不履行だとか抜かして来やがった。まぁ、中国との商談ではよくある事なんだけど、今回は額が額だからね。しかも中国との商談は社長同席が基本だから、俺も同席していたのが相良的には納得いかねぇんだろうな。口にはしねぇけど、お前がいながらなんでこうなった感が凄くてさー」


神崎社長が「俺社長なのに」と、肩を竦める仕草がなんだか可愛く見えて、フランク過ぎる神崎社長の様子に、大きなトラブルなのだろうけれどつい笑ってしまった。


「まぁでも、そろそろ決着がつくんじゃないかな。ほら、ついた。この廊下の先の、第一会議室に相良はいるよ」


そう言って、神崎社長が私の背中を軽く押した。

廊下の先からは、扉が少し開いているのか中国語の怒声が聞こえてくる。

思わずビクッとした私に、隣に立った神崎社長は「大丈夫」と笑った。


「中国人は大きな声で自己主張するのが特徴だからね。怒鳴っているように聞こえるだけで、これは普通。それに……あ、夏美ちゃんは中国語って分かる?」


首を横に振りながら「いえ」と小さな声で答えると、神崎社長がニッと笑った。