静かなホールでエレベーターが来るのを二人並んで待っていると、神埼社長が私の方を見て来たので、私も少しだけ顔を上げて彼を見た。


……結婚式の時にも思ったけれど、神崎社長もまた、かなりのイケメンだ。

サラリとした清潔感のある短い黒髪に、端正な顔立ち。一見厳しそうなキリッとした雰囲気なのに、笑ったら少し幼い感じがするのがまた、女性の心を鷲掴みにするポイントだ。


「ゴメンね。確か今日退院だったよね?そんな時に相良を借りちゃって、本当、申し訳ない」

「え、あっ、いえ!そんな!私は全然大丈夫なので!お気になさらないでくださいっ」


慌てて両手と首を横に振る私を見て、神崎社長は何故か苦笑いを零した。


「まぁ、夏美ちゃんが許してくれても、相良は今頃怒り心頭だろうねぇ。今回のトラブルの相手は中国のメーカーなんだけど、これがまた話がずっと並行線で。今丁度ブレークタイム中でね。秘書の目を盗んで外にタバコを吸いに出てたところ」


チロリと舌を出した神崎社長が、少し戯けた表情をしながら到着したエレベーターへと乗り込む。

その彼の表情になんだか親しみを感じて、私も小さく笑いながらエレベーターへと乗り込んだ。


「今回はたまたま、以前相良の部下だった子が海外事業部で起こしたトラブルだったから、パニクって最初に相良に連絡しちゃったみたいなんだけど、まぁ、どっちにしろ相良は呼んでただろうね」


そう言って、神崎社長は少し伸びをした。
遥は国内での営業だから海外事業部は関係ない。なのに、どうしてなんだろう、と神崎社長を見つめると、彼は優しく目を細めて自慢げに笑った。