鞄を持って寝室に戻ると、ワイシャツの袖に腕を通しながら遥が眉尻を下げて私を見てくる。


「ゴメンねなっちゃん、お昼作ってる途中なのに。ちょっと会社で大きなトラブルが発生したみたいで、すぐ行かなきゃいけなくて。すぐに戻って来れるとは思うんだけど、お昼は何か出前でもたの、」

「大ー丈夫だよ!遥、心配し過ぎっ。ほらっ!早く行かなきゃいけないんでしょ?頑張ってね!」


遥の言葉を遮るように笑って言うと、スーツの背広を着やすいように広げて持ち上げ、「早くっ」と急かす。

すると遥が少しだけ目を潤ませて、私を背広ごとぎゅうぅぅっと抱きしめた。



「あーーー!もう!なっちゃん可愛い!なっちゃん大好き!なっちゃん愛してる!!!」



遥の勢いに、つい、「スーツにシワがついちゃうよ」と恥ずかしさを誤魔化しつつも、こうやっていつもストレートに気持ちを言葉にしてくれる遥には、やっぱり敵わないなぁと愛しさに笑みが零れた。





***


───あれから既に、遥が会社に向かってから七時間以上が経過した。

携帯をチラリと見つつ、連絡が来ないところを見ると、まだまだトラブル解決に時間が掛かっているのかもしれない。

テーブルの上にある、さっき作ったサンドイッチの入ったタッパーと、時計とを交互に見る。


………どうしよう。


時刻は今、丁度午後七時前。

邪魔になったらいけないとは思うけれど、差し入れくらいはしても大丈夫かな……?

取り敢えず多目に作ったし、遥の様子も気になるのでやっぱり行こう、と私はサンドイッチのタッパーを紙袋に入れて携帯をバッグに押し込んだ。