渋々とリビングのソファへと座りテレビを付けるも、なんか納得がいかないというか落ち着かない。

もう一度チラリとキッチンの方へと視線を向けると、遥がエプロンをしていない事に気が付いた。


……あれ、珍しい。

服が汚れるといけないからと私が買ってきてあげて以来、料理をする時は欠かさず着けていたのに。


やっぱりなんか……遥の様子がおかしい気がする。


ゆっくりソファから立ち上がってエプロンを探していると、ダイニングテーブルの椅子に無造作に掛けてあるのを見つけて、もう一度遥の後ろ姿をチラリと見た。


淡いグレーの色のニットソーを着た遥の背中は広く見えるのに、キュッと引き締まった細い腰回りが妙に色っぽく見えて、その上脚が長い遥にはブラックのスキニーが良く似合う。

少しだけムラッとしてしまった自分に、思わずドキリとしてしまった。



………どうしよう、今、無性に抱きつきたい。



遥だったら、いつもなんでもない事のように普通にベッタリ抱きついて来てくれるけれど、今まで自分からそんな事をした事がない私からしたら、これは物凄くハードルが高い。


……どうしよう、どうしようっ……!ハードルは高いけれど、でも今、無性にあの細い腰に抱きつきたい。

エプロンを渡すフリして、なんとなく、さりげなく……抱きついてみる……?

あ……ダメだ。考えただけで心臓が口から飛び出してきそう。


鼻歌を歌っている遥の後ろで、ドキドキしながらそんな事を考えている自分につい苦笑いが零れた。


───……だけどやっぱり、恥ずかしいけれど今、遥に触れていたい。


羞恥心と葛藤しながらも、ゆっくりとキッチンへと向かう。
テレビの声で私の足音が掻き消されているようで、遥は全く気付いていない。

驚かすわけじゃないんだし少しは気付いてもらわなくちゃいけないと思い、私はわざと音を立てて遥のエプロンを椅子から引っ張った。