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あれから遥と病院を出て、私の実家へと向かった。

もう母は沖縄へと帰ってしまい家には誰もいないけれど、遥が私の家出道具を全部持ち帰るまでは帰らない、とニッコリ微笑んで言うので慌ててバッグに詰め込んだ。

その間、遥の口数が物凄く少なかったのが少し気になったけれど、取り敢えず全部車に乗せて無事家路に着く事が出来た。



───だけど。



家に帰り着くなり、遥の事だからベタベタ触れてくるのかなぁと思っていたのに。

……何故か遥は、私の入院道具と家出道具をテキパキと片付けると、すぐにキッチンへと向かってしまった。


「……遥?」

「んー?」

「……何か、作るの?」

「うん。なんだかんだでもうすぐお昼だしね。なっちゃんはソファに座ってて」


キッチンに立つ遥の顔を覗き込むように隣に立った私に、遥が甘く目を細めて微笑んだ。

その彼の表情にドキリと胸は高鳴るけれど、同時にモヤッともしてしまう。

正直、家に帰ればベタベタ遥が触れてくる事を期待していた私は、至って普通の遥に……なんだか悶々として落ち着かない気分にさせられる。


………うん。
普通、なんだけど。
これが普通のはず、なんだけど。

なんだろう、この物足りなさ感は。
……さっきの実家での口数の少なさの事もあるし、もしかして、何か怒ってる……?

そう思ってもう一度遥を見上げるも、至って普通、というより、どこか嬉しそうな上に鼻歌まで聞こえてくる。

私の視線に気付いた遥が、もう一度私の方を見て、ん?と小首を傾げてきたので、なんだか恥ずかしくて慌てて首を横に振って離れた。