バクバクと鳴り響く心臓で、全身まで揺れているような錯覚に思わず息まで止めてしまう。

すると、また小さく噴き出した遥が、私の上唇をかぷりと唇で挟んで来た。



「なっちゃん、息、止まってる」



距離感がほぼゼロに等しい位置で遥が笑うので、ブワッと一気に顔が赤く染まる。

遥がふと、至近距離で妖しく目を細めたのが見えて。


───ドキリ、と大きく鼓動が跳ねる。


思わず息を吐き出して吸うのに口を開けると───、すかさず遥に唇を塞がれた。

待ってましたとばかりに遥の舌が、私の舌を絡め取る。


今までの私であれば、キスしているうちに段々と慣れて気持ちが落ち着いてくるのに、今日は一向にドキドキが収まらない。



───だって遥が。



今、私の目の前にいて、私に触れている。



今までだって数え切れない程、同じような事はあったはずだけれど、与えられていたものが“当たり前”ではないのだと理解したからか、一瞬一瞬を大事にしたいと思えば思う程意識してしまってドキドキしてしまう。


例えば彼の、私の頬に触れる少し冷たい指先。

スーツの袖から見えるストライプ柄のワイシャツに、腕時計を嵌めた少し骨ばった手首。

ネクタイがほんの少し緩められた首元。


今自分から見えたり感じたりする範囲の事でも、こんなにドキドキさせられる。


溺れるようにキスをしながら、歯列をなぞる遥の舌があまりにも気持ち良くて一瞬唇が離れてしまいそうになると、遥に後頭部をグッと抑えられてキスがより深くなった。

ほんの少しの隙間も許さない。そう、言われている気がして。

遥に求められているのが唇から伝わって来て、求められる事がこんなに満たされる事なのかと改めて実感する。


そうすると、必然的に私も遥を求めたくて彼の首へと両腕を伸ばすと、一瞬驚いたように動きを止めた遥がそっと唇を離した。


───え……私、何か間違えた?


そう不安になって彼の首から腕を離そうとすると、そのままグッと押さえるように両腕を元の位置へと戻されて、遥がコツンと額をくっ付けて来た。



「……あー……もう。この手が嬉し過ぎて、なっちゃんが好き過ぎて……このまま連れて帰りたい」



額をくっ付けていたと思った遥が少し動いたかと思えば、私の右耳をかぷりと唇で挟んでそう言った。