***


冬香さんが帰ってから、やっぱり妙に緊張してしまっていたせいか、私は眠ってしまっていたようで。

ゆっくり目を開けると、視界の端にスーツの袖が見えた。


遥かな、と袖から視線で辿って行くと、本を読んでいる遥が見えて、トクン───、と胸が高鳴った。



相変わらず、長くて綺麗な指だな、とか。

頬に影を落としてしまう程、長い睫毛が羨ましいな、とか。

ニキビ跡ひとつない綺麗な肌に、スッと鼻筋が通った高い鼻、薄い唇は閉じているだけなのに色っぽさを感じて、視線で追っているだけなのにドキドキしてくる。


チラリと視線を本から上げて、こちらを見た遥と目が合った。

途端に本を閉じてふわりと嬉しそうに笑った遥に、なんだか妙に恥ずかしくなって視線を逸らしてしまった。


……なんだろう。
なんか、変に意識してしまって、恥ずかしくて堪らない。

こうやって、静かな上に何もない状態で遥と二人きり、というのが久々だからかもしれない。

私、今まで遥とどんな風に過ごしていたんだっけ?と混乱さえしてくる。


「……? なっちゃん、どうかした?」

「わっ、ぁ……!」


遥が私の頬に触れて来た事に、ついビクッと大袈裟に反応してしまった。

ジワジワと顔が赤くなって行くのが止められない。

恥ずかし過ぎて、ついに顔を両手で覆ってしまった。


「え、えっ!?なっちゃんどうしたの!?どこか痛む!?」


遥が私の声を聞こうと、必死に手首を掴んで顔を覗き込んで来る。

う、わーーー!!!近い近い近いっ!!!
こんな状態で、遥を直視なんてとてもじゃないけど出来ないっ。