「……だけど本当は心の奥底でずっと、ハルちゃんが私を妹としてしか見ていない事に気付いてはいました。でもどうしても、それを認めたくはなくて、恋人のフリをしていた時の甘い記憶が忘れられなくて。だからハルちゃんをわざと心配させたくて、ホテルを転々として実家に帰らなかったりしていました」


冬香さんが私を見て、目を細めつつ寂しげに笑った。


「側にいて欲しいという私に、ハルちゃんはずっと、家においでって言ってくれていたのに、私はそれが悔しくて……二人が一緒にいるところを見たくはなくて、ハルちゃんを………脅しました。私だけの側にいてくれなきゃ、夏美さんにハルちゃんの過去を話すって」


彼女がまた、私から視線を逸らして俯いた。

でも私の中で、ああ、だからか。と引っ掛かっていた事がストンと一気に腑に落ちた。

どうして遥は、私と冬香さんを会わせるのが怖いと言っていたんだろうって引っ掛かっていたのだ。彼女とは一度面識があったからこそ、尚更そう思っていた。

それに遥の事だから、何もないなら絶対に家に連れて来そうなのになって思っていたのだ。


「ゴメンなさい」と、もう一度彼女が苦しげに言葉を漏らす。

彼女の謝罪の言葉になんて返しようもなくて、俯く彼女を見つめていると、ゆっくり顔を上げた冬香さんは小さく微笑んだ。


「……安心して下さいって言うのはなんか変なんですけど、私、今回の縁談……受ける事にしたんです。だから、近いうちその方に付き添ってアメリカに行く事が決まっていて。だからもう、二度と会う事もないと思います」


驚いて、思わず「えっ」と声が出てしまった。

彼女の事は確かにまだ好きにはなれないけれど、そんな投げやりのような感覚で決めてしまってもいい事なのかと、つい心配になってしまう。