「……ゴメン、ナサイ……っ」
突然、ガバッと頭を下げた冬香さんに驚いて彼女の方をもう一度見ると、頭を下げたまま肩が小刻みに震えているのが分かる。
「夏美さんが、倒れたって聞いて……私の所為だって思ったら、いてもたってもいられなくて……」
必死に頭を下げる彼女を見て、不思議ともう怒りの気持ちは湧いてこなくて。
顔も上げずに、「ゴメンなさい、ゴメンなさい……っ」と言い続ける彼女を、ただぼんやりと見つめる。
───……彼女は、ただ、間違っただけ。
好きな人を、振り向かせる為の───方法を。
それは、私も同じで。遥も、同じで。
……いや、違う。恋愛に間違いも正解もない。
きっと、好きになった人がタイプだと言うように、本当の答えなんて最初からなくて。
彼女は彼女なりに、遥を取り戻そうと必死だっただけだ。
私は細く長く息を吐き出して、ゆっくりと吸い込んだ。
「……謝らないで、下さい。今回の事は……誰が悪いとかないと思うんです。確かに、冬香さんにされた事には凄く悔しいと思わされたし、苦しみもしました。でも、ずっと遥とちゃんと向き合わずに逃げていた私にも原因はあって。体調管理を怠ったのも私だし、本当に冬香さんが悪いとかっていうのではないんです。……ただ、私も器の大きな人間ではないので、これを機に冬香さんと仲良くっていうのは、正直すぐすぐには無理です」
そう告げて彼女をもう一度チラリと見ると、ボロボロと涙を零す冬香さんと目が合った。
私は───、遥の話を聞いただけなので、彼女の苦悩までを知る事は出来なかったけれど。
────それでも。
偽善者ぶっていると言われればそれまでだし、お人好しだとバカにされても文句は言えないけれど、彼女を───責める気にはとてもなれなくて。
……だって、彼女のした事は全て心理戦だ。
“そう”私に思わせるように行動していただけであって、そこに彼女のどんな想いが込められていたかは分からないけれど、実際には何もなかったのだ。
悔しいとは思わされたけれど、それを思い込みで突っ走ってしまったのは私だから。
だから、彼女を責めるのは……違うと思ったのだ。