「あ、はい、どうぞ」と答えた私の声の数秒後、ゆっくり横に開かれて行く病室のドアをジッと見つめていると、現れた人物に───あ、やっぱり。と思う。


遥に今朝、聞かれていたのだ。
───“彼女”に、病院を教えてもいいかって。


正直、最初はなんで?って思った。


彼女と遥が何もなかったのだという事は分かったけれど、だからといってそう簡単に仲良くなれるとはとても思えないし、それは彼女も同じだろうと思っていたから。


だから最初は、断ろうと思っていた。──……でも。


“ここで”逃げたら、今後、私は彼女と会う事からずっと逃げ続けてしまうような気がした。

別に彼女に会わなきゃいけないわけではないし、一生会わないようにすればいいだけなのだろうけれど。


───それでも。


今度こそ、きちんと彼女に告げたいと思った。



私は、“遥を譲る気は一切ない”のだと───。



「……突然、すみません」


そう言って、“彼女”こと、“冬香さん”は、頭を下げつつゆっくり病室に入って来た。

事前に遥に聞かされていたとはいえ、やっぱり今までの経緯からか彼女を警戒した目で見てしまう。

小さくコクリ、と頷く私を見て、冬香さんは申し訳なさそうに苦笑いを零した。


「……私の顔も見たくない事、ちゃんと分かっています。なのに、こうしてお会い出来る機会を作って下さって、本当に感謝しています。……ありがとうございます」


既に涙声になっている彼女の声に反応してか、私の目にも薄っすらと涙の膜が張って来て、慌てて冬香さんから視線を逸らした。