まるで結婚式のあの時みたいだなぁ、なんてさっき見た夢を思い出して、自然と笑みが零れた。

だけどふと、彼の後方に見えるテーブルの上の緑の紙と指輪が目に止まって、切なくなった。


遥が私を手放そうとした瞬間が、僅かな時間だったとしてもあったのだ。

そしてそれを決断させてしまった原因は、私にあって。



でも、これからは────。



遥にもう一度ぎゅっと抱き付いて、小さく深呼吸をして、言葉を紡ぐ。



「───好き」



私の言葉に、遥が先程のように固まるのが分かった。

彼の反応で、私が如何に言葉にして来なかったかが分かる。


「遥が、好き」

「……なっちゃん、」

「一生離れたくないし、離して欲しくない」

「………」

「これからは、もっと伝える。私は、正直自分の気持ちを口にするのが苦手だから、時には遥を不安にさせてしまう事があるかもしれない。それでも、私なりに伝えて行く。だから……あれ、破いてもいい?」


遥がハッとしたように顔を上げて、後ろを向く。

ゆっくり私の方へと視線を戻したかと思うと、彼は今にも泣き出しそうな顔で私を見つめていた。


「破って、いいの……?」

「破っていいっていうより、私が破りたいの」

「でも、なっちゃん……後悔しない?俺、どんなにお願いされても、もう一生書かないよ?」

「一生書かなくていい」


その私の言葉を聞くや否や、遥がパッと離婚届を手に取り、私が声を掛ける間も無くビリビリに破いてしまった。

あまりの早さに若干呆気に取られていると、遥が指輪を薬指に嵌めながら私の目の前へと顔を寄せて来る。

いつの間に涙は止まったのか、彼は目を妖美に細めてふわりと甘く笑った。




「──これで、なっちゃんは俺から一生離れられないから」




その遥のあまりの妖艶さに、一瞬ゴクリ、と唾を飲み込んでしまったけれど、なんとなく負けたくなくて彼のネクタイをグイッと引っ張る。


「もちろん、離れないよ」


そう笑って告げた後、彼の唇を素早く奪うと、見た事もないくらい遥の顔が赤くなった。