「……じゃあ、遥がいつも、私に対して諦めていたのは、」


震える声でそう告げた私を、遥が戸惑いと不安を滲ませた表情で見て来た。




「……諦めていたっていうより、心から……愛してはもらえていないと思っていた。怖がるなっちゃんを、俺は無理やり閉じ込めて引き止めてしまったんだ、当然の報いだと思っていた。だけど、それでも……いつかは、と願わずにはいられなくて。だからなっちゃんを………離してあげる事が出来なかった」




───ポトリ、と遥の目から涙が落ちた。


私達は、どこで……間違ってしまったんだろう。


遥の今までの行動が、全て思い起こされて───胸がギュッと掴まれたように苦しくなった。

だから遥は、───いつも私の態度に、過剰に嬉しそうに、時には悲しそうに反応していたんだ。

彼が私を抱く時、毎回“ゴメンね”と口にしていたのは、私に愛されていないと思っていたから。

遥は毎日私に想いを言葉にして伝えてくれていたけれど、私からの想いの言葉を望まれた事も、ましてや強要された事なんて一度もなかった。


思い返してみれば、私はいつも遥に与えられてばかりで。




───……私から、遥に想いを伝えた事なんてなかった。




遥が側にいてくれる事が当たり前になっていて、彼の想いをまるでBGMかのように聞いていて、言葉で伝えなくても、側にいる事で気持ちは伝わっているんだと、勝手に思い込んでいた。



───間違っていたのは、私だ。



両想いって、“幻想”だと誰かが言っていた。

その意味が、今、初めて分かった気がする。
言葉で伝えなければ、人の気持ちなんて見えるわけじゃないから伝わらない。でも、伝えたところで、それが絶対なんだと証明する術もない。だから、“幻想”なんだ。


でも私は、遥の想いに嘘を感じた事はなくて。
それは遥が、毎日沢山言葉にして私に伝えてくれていたからで。


────……今からでも、まだ、間に合うだろうか。