すると遥が、安堵したように表情を少しだけ緩めた。


「冬香の写真は……、卒業式のやつは俺が記憶を失う前に撮った写真で。後の二枚は入院中に撮った写真。鍵を掛けていたのは……記憶を失くした俺への戒め。消したくても、消せないようにわざと鍵を付けたんだ」


あの三枚の写真を思い出して、胸がキュッとなる。
戒めだとしても残されている事自体、嫌だと思ってしまう私は、きっと相当心が狭いのだと思う。

昔の事なのだと分かってはいても、自分の中の拗ねた心が顔を出す。


そんな私の感情に気付いているのかいないのか、遥がふわりと私の髪に触れて来た。



「……髪を切って欲しくなかったのは、変化が怖かったから。忘れない為に毎日写真を撮っていたはずなのに、それでも、情けないけれど、自分の記憶の中のなっちゃんが変わってしまう事が怖かった」



彼の言葉に、───あ、と気付く。


確かに遥は、消耗品でもなんでも、なくなったり買い替えたりする時、必ず同じ物を買って来ていた。

それは単に、気に入っているからなんだろうなと思っていたけれど、彼は日常の物にさえも忘れるのが怖いのだと変化を恐れていた事に気付く。



「………避妊、は」



そこで一旦言葉を切った遥は、切なげな瞳で私を見る。

その彼の表情に何を言われるのかと、ドクリ、と心臓が跳ねて全身に緊張が走った。




「───……俺から、なっちゃんが逃げられるように」



「───……え?」




遥の言葉の意味が分からなくて、目を見開いて聞き返す。

すると彼は、視線を俯けて目を細めた。


「……矛盾してるのは、分かってる。なっちゃんを逃げられないように囲い込んだクセに、逃げ道も作っておくなんて矛盾してるって。でも……」


「ま……って……、え、あの、ちょっと待って……!」


遥の言葉に、さっき感じた大きな引っかかりを思い出して、私は慌てて彼の言葉を遮った。