「……軽蔑とか、そんな気持ちは微塵もないよ。ただ……どうして私に嘘をついてまで、冬香さんと二人で会っていたの?」


私の言葉に、途端に遥が眉尻を下げて視線を俯けた。


「……うん。ゴメン。それに関しては弁解の余地もない。ただ……冬香は、親父の愛人の子供で、相良の家では浮いた存在だった。小さい頃から母の陰湿な嫌がらせを受けていて、見兼ねて一度助けた事があったんだ」


遥の長い睫毛が、彼の頬に影を落とす。
───“弁解の余地もない”───。その言葉に、ズキリと胸が痛んだ。


「それから……冬香に懐かれてしまって。多分俺は、冬香に自分を重ねて見ていたんだと思う。あの家で、みんなの期待は常に兄に向けられていたから、嫌がらせこそ受けなかったけれど、相良の家で俺は常に独りだった。そんな俺と似ていた冬香に……いや、俺より不遇な冬香を守る事で、優越感に浸っていたんだと思う」


遥が苦しそうに眉根を寄せる。
彼の孤独に対する恐怖の根源を垣間見た気がして、胸がギュッとなった。


「それでも唯一、相良の家で寂しさを分かち合っていたのは冬香だけだったから。だから、冬香に側にいて欲しいと縋られると、いまだに断りきれない自分がいて。なにも二人で会わなくても、冬香を家に呼ぶ事だって出来たはずなのに、冬香をなっちゃんに会わせたくはなかった。なっちゃんに自分の最低な過去を知られる事が……怖かったから。だから、嘘、ついてた」


遥が視線を上げて、私を真っ直ぐ見る。

そんな彼を、私も真っ直ぐ見つめ返した。


「……だけど、これだけは信じて。なっちゃんが想像するような事は、一切ない。冬香の事は、妹としか見ていない」


……それは、私がずっと聞きたかった言葉で。


だけど、遥が冬香さんを大事に思う事へのヤキモチからなのか、まだ釈然としない気持ちの燻りに、トン、と遥の胸を叩いた。