「……それからは、なっちゃんの会社と関わる部署に就く為に必死だった。少し時間は掛かってしまったけれど、やっと担当営業になれた時は、嬉しくて嬉しくて。だから勢い余って知り合った次の日に、プロポーズまでしてしまった」


遥が苦笑いしつつ、私の頬に流れる涙を指で拭った。

……あの時、絶対に詐欺だと思っていたけれど、まさか自分がこんなに遥に想われていたなんて。

そう思うと、また自然と涙が溢れて来た。

だけど同時に、そんなに想われていたのに、今まで感じていた遥との見えない距離を思い出して、つい彼をジッと見つめ返す。


冬香さんの事も私の勘違いだと分かったけれど、どうして二人で会っていたのか、ホテルの件もハッキリとは聞いていない。

まだ少し聞くのは怖いけれど、聞くなら今だ、と私が口を開きかけた時、遥が不安げに私の右頬にそっと触れて来た。



「………軽蔑、した……?」



───軽蔑───……?



驚きこそしたけれど、そんな風には微塵も感じなかった。


……私は、彼が過去に“して来た事”を間近で見ていた訳じゃない。だからこそ、そう思えるのかもしれないけれど。

でも、それはやっぱり“過去”で。消えるわけではないけれど、現在進行形で彼がそうある訳ではない。



───過去の過ちを悔いて、今を生きる人は大勢いる。



それに冬香さんの件だって、彼女の立場になって考えれば彼女の気持ちも痛い程分かる。だけど同時に、何かに縋らなければ生きて行けない程苦しかったであろう遥の気持ちも、十分過ぎる程伝わっていて。



そこに、誰かを責めようなんて気持ちは微塵も湧かない。



だけど遥のこの、不安げな表情と、先程からの言動からして大きく引っかかる事は……ある。

でもその前に、と私はゆっくり首を横に振りながら、椅子に座る彼と目線を合わせた。