「……じゃあ、あの靴とかコップとかの写真は……」


遥が話し終えるまでは黙っていようと思っていたけれど、つい口から呟くように言葉が漏れてしまった。

そんな私の言葉に、遥が小さく笑うのが分かった。


「……うん。多分なっちゃんには、相当不気味に映っていたんだろうけど、あれは俺が見たもの全てを撮りたくて。どんな角度で、どんな風に俺がその場面を見ていたのか、忘れたくなくて。そしてもし、忘れてしまっても、またそれを見てすぐに思い出せるように、二度と忘れる事がないように。いや……違う。忘れてしまう事が、もう、怖くて。……だから、何枚も、何枚も必死になって撮っていた」




───……あ。と、思う。



あれは今まで全て、遥の目を通して、遥が見て来たもの。


忘れないように、必死に撮って来た、彼の日常。





その日常を、埋め尽くすように沢山写っていた私───。





彼の写真の中で、圧倒的に私が写っている割合が多かった事を思い出して、堪らず涙がボロボロと溢れて来た。


……それだけ、遥が私を忘れたくないのだと、写真を通して言われている気がして。


嗚咽を漏らして泣き出した私に、遥が驚いたのかすぐに抱きしめる腕を解いて顔を覗き込んで来る。


「ゴメン、なっちゃんに取ったら写真の件は、嫌だったよね。本当にゴメン。でも、相良の家を出られる事になって嬉しくて。だけど、直接なっちゃんに話し掛ける切っ掛けが掴めなくて、隠れて撮るような事しか出来なくて……本当にゴメン」


途端に遥が申し訳なげに俯いたので、私は嗚咽を漏らしながらも必死に首を横に振った。