彼の笑顔にズキリと胸が痛んだけれど、いまだにあの日私が見ていたファイルの事にも触れない彼に、不信感も募る。


「……少しね、距離を……置きたいと、思って」

「……距離?どうして?」


ここに来て、今日初めて彼の表情が少し曇った。


「理由、は……分かってる、よね?」


ドクドクと煩くなる心臓と比例するように、手にもジワリと嫌な汗が滲む。

それなのに遥は、私の問いにフッと小さく笑い、「写真の事?」と、何でもない事のように軽く聞き返して来た。


今の今まで触れて来なかった話題だったからこそ、彼は少し焦りを見せるのかと思っていたのに、遥の反応は斜め上をいっていて、少し呆れているかのようにも見えた。


「だ、だって、アレ……普通じゃない、よね?」

「普通って何?」


彼の返しの問いにも少し狂気染みたものを感じて、私はただただ呆然と彼を見返す事しか出来ない。


「まさか、あんな写真ぐらいで別れようなんて思ってないよね?」


遥の問いに、背中を冷や汗が流れていく。


彼は……おかしい。


確かに写真だけだけれど、知り合ってからならまだしも、知り合う十ヶ月も前からなんて、しかも全部隠し撮りでだ。

取り敢えず、なんて返せば理解してもらえるのか、と必死に思考を巡らせていると、遥がニッコリ笑って驚くべき事を述べた。


「なっちゃんの事が気になったから、写真に撮ってた。理由はそれだけだよ。それに、生まれて初めて興信所なんて使ったよ、俺」