「それから……俺が目覚めてからすぐに、警察が来た。あの交差点の事故現場には、ブレーキ痕が全くなかったって。俺が、あそこを毎日通ると知った……誰かの計画的犯行じゃないかって」


───まるで、自分の事のようにショックで身体が固まる。

いくら過去に自分が罪を犯していたとしても、自分の命が狙われていると聞かされて、何も思わない人なんていない。それどころか、私に取ったらそれこそドラマや映画のような非現実的な事で。


その時の遥の心境なんて、……私には計り知れない。



「……それだけ、俺は沢山の恨みを買って生きていた。記憶を失ってはいたけれど、元の自分がどんな人間だったかなんて一目瞭然で……正直記憶を取り戻すのが怖くて堪らなかった」



苦しげに言葉を漏らす遥を見て、私は苦しさのあまり身体を無理矢理起こし遥の頭をそっと抱きしめた。


そんな私に、遥も縋るようにぎゅっと抱き付いて来る。



「だけど、全ての記憶を失ったと思っていたはずなのに、ぼんやりとずっと頭の片隅に……一人だけ記憶が残っている人がいた。それは、女の人で。だけど名前も素性も何も分からない。顔さえも朧げで、覚えているのは……彼女の温かい雰囲気だけ」



ハッとして、抱きしめていた遥の頭をそっと離すと、彼もゆっくりと私を見上げて来た。


「……それが、なっちゃんだった」


目に涙を浮かべた遥が、切なげに目を細めたかと思うとまた私をぎゅっと抱きしめた。




「───……だけど俺は、間違えた」