「だけど……それからよく、その交差点付近でなっちゃんを見掛けるようになって。その度に、小銭を落とした人の拾うのを手伝っていたり、子供を抱っこしてベビーカーを押す女の人の荷物を持って交差点を渡っていたり、外国人に道を聞かれて焦っていたり、助けたおばあさんと笑顔で話していたり」


え?と驚いて遥を見る。

……確かに、そんな事もあった気がする。
でも、どれもそんな社会貢献とか出来るような凄い事でもないのに、どれも普通の日常にありふれた出来事なのに、遥が覚えていた事に驚いた。


「そんななっちゃんを見かける度に、あー、この子は偽善なんかじゃなくて、元々こういう子なんだなって思った。……それからは、そんななっちゃんを見掛けるのが俺の密かな楽しみになって。仕事の用もないのに、運転手に無理言ってその道を通るようにまでなって……」


その時の事を思い出しているのか、遥が小さく口元を緩めた。




「──いつの間にか、こんな子が俺の側にいてくれたらって。あの笑顔を俺にも向けてくれたら……どんなに癒されるだろうって。どんなに救われるだろうって……思うようになってた」




そう、言葉を漏らした遥が、とても悲しそうに見えて。

普段の、孤独を誰よりも嫌う遥を思い出して、胸がぎゅっと苦しくなった。