「……俺が、初めてなっちゃんを見掛けたのは、今から三年以上前」


ポツリ、と呟くように話し始めた遥の言葉に、瞬時に花田さんの話が頭に浮かんだ。

……ということは、私が遥の写真から得た十ヶ月前という情報よりも、更に前から遥は私を知っていた、という事だ。


「K駅の近くの交差点で、転んだおばあさんを背負っていたなっちゃんを見掛けたのが……最初」


遥の言葉に、目を見開いた。
花田さんを助けたのは、私が社会人になったばかりの四月。
今から三年七ヶ月も前だ。

でも、あの場に遥もいたのかと思うと、なんだか不思議な気持ちになった。


「……あの頃はまだ、俺は相良の会社で働いていて、仕事の関係であの辺りをよく車で通っていたんだ。一応専務って役職柄運転手もいたから、後部座席からその様子を見ていた」


ドクリ、と鼓動が跳ねた。
以前、冬香さんと会っていたホテルでの遥を思い出して、なんだか無性に切なくなって、袖を掴む手に力が入る。


「最初見掛けた時、冬香かと思ったんだ。でも、よく見たら全然違っていて。……今時、こんな偽善者がまだいるのかって、あの時は思った」


冬香さんの名前が遥から出る度に、胸の辺りがズキリと痛む。
だけど同時に、遥から“全然違う”という言葉が聞けて、少しだけ安堵した自分がいた。