遥の後ろで、病室のドアがパタリと静かに閉まる音が聞こえる。



すると彼は、更に私をギュッと抱きしめた。

その彼の温もりに包まれて、安堵感からなのか一気にいろんな感情がブワリと溢れて来て。

───……私は遥のスーツをギュッと握りしめた。


「……全然、全然意味がわからないよっ。じゃあ、どうして、どうして離れて行こうとっ……するのっ」


私の言葉に遥が息を呑んだ気配がしたかと思うと、彼は抱きしめる腕の力を少し強めた。




「………怖かったんだ」




───そう、酷く苦しげに遥が答える。

その声に、彼の表情を確かめたくて少し身体を離そうとしたけれど、すぐに遥が私の肩口に顔を埋めて来た。


「なっちゃんから、また……別れを告げられる事が怖かった。そしたらまた、俺はあの時のようになっちゃんを閉じ込めてしまいそうで、だからなっちゃんに会いに行く事も、連絡を取る事も怖かった。それだったらまだ、自分からなっちゃんを解放してあげた方が……傷が浅くて済むんじゃないかと思ったんだ」


遥の涙がポトリ───、と私の肩に落ちる。

「でも結局無理だった」と、呟いた遥の涙で、私の肩がどんどん濡れて行く。


「俺が優しいなっちゃんに付け込んで……あの時無理矢理結婚まで持ち込んだ自覚はあるから、だから……余計怖かった。それに、冬香の事を知って俺を軽蔑して、あの時のような同情さえも、もうしてもらえないんじゃないかって思ったら……怖くて堪らなかった」


遥の言葉に、あの日、軟禁された時の事を思い出す。


だけど同時に、遥の話に違和感と腹立ちを感じた。

私に軽蔑される事を怖いと言いながら、彼は冬香さんと会い続けていたのだ。


私を……彼女の代わりにしていたはずなのに。


どっちが本当の遥なのか分からなくなって、私は強く彼の胸を押して少し身体を離した。