───パタン。と、静かに閉まる病室のドアを見つめながら、頭が真っ白になった。


テーブルに置かれた紙と指輪を見て、身体が震えているのが分かる。




───………離婚届だ。




今まで頭にチラリと浮かんでは、非現実的に感じていた“ソレ”を、まさか遥から突き付けられるとは思ってもいなかった。

まだ遥は、私を想ってくれているんじゃないかと驕った考えの自分がいたからだ。


目の前に突き付けられた“ソレ”に、もうどうしようもないのだと思い知らされる。




────だけど。




私は自分の左腕に刺してある点滴を、グッと歯を食いしばって引き抜いた。

まだ起きたばかりで身体のあちこちが重く、思うように動かない。

それでも私は、唇を噛み締めながらベッドからずり落ちた。



───納得いかない。



こんな一方的に謝られて、終わりにしようなんて、……納得なんか出来ないし、絶対に……許さない。

それにこのまま二人が幸せになるなんて、もっと許せない。

遥は、散々私を縛りに縛って結婚したクセに、今更代替えでしたなんて……絶対に許さない……!


上手く力が入らない脚に、悔しくて拳を打ち付ける。


「……うっ、く……っ」


悔しくて、苦しくて、でも、一番は悲しくて。
ボロボロと頬に涙が伝う。



───私は、まだ。



こんなにも、遥が好きだと伝えてもいない。



このままじゃ、自分が一生後悔する、と私は近くのテーブルを掴んで立ち上がった。

恋人であろうが、夫婦であろうが、気持ちは何も変わらない。

私は、まだ、彼にこんなにも恋をしている。
たとえ振られてしまうのだとしても、伝えておかなきゃ後悔する……!



テーブルから手を離し、私は必死にドアへと一歩を踏み出した。