……それからまた、すぐに沈黙が訪れ。

自ずと視線を下げたまま自分の手元を見ると、私の左手だけに嵌っている指輪が、酷く痛々しく見えた。


「………なっちゃん、」


そう、声を掛けながら遥が私の右手に触れようとしたので、思わず自分の方へと腕を引いてしまった。


それを見た遥が、出していた手をグッと握りしめ、少し俯いたかと思うとスッと椅子から立ち上がった。



「………ゴメン。本当に、俺……自分の事ばかりで、なっちゃんも、冬香も、苦しめてばかりで……ゴメン」



私だけでなく、冬香さんの名前が出た事にドクリと心臓が嫌な音を立てる。

恐々遥の方に顔を向けると、彼は俯いたままスーツの上着の内ポケットから何かを取り出した。


それは綺麗に折り畳まれていたけれど、薄っすらと見える緑色に、一瞬心臓が止まったような気がした。

私は大きく目を見開いて遥を見る。

だけど彼は私の方を見る事なく、ベッドの脇にあるテーブルにその折り畳まれた紙と、指輪をコトリ──、と置いた。



「……俺のサインはしてあるから。後は、………なっちゃんの自由だから。今まで、本当に俺の勝手ばかりでゴメン」



何が起こったのか分からなくて、呆然としながら遥を見つめ続けても、彼はもう、私を見ようともしなくて。

だけど私もあまりにもショックが大き過ぎて、何も言葉が出て来ない。



「……もっと、早くにこうするべきだったのに。意気地なしで、ゴメン……」



そう、遥は苦しげに言葉を漏らすと、私を一度も見る事なく病室から出て行った。