静かな病室に、カチ、カチ、と時計の音だけが妙に大きく響く。

その沈黙を先に破ったのは、遥だった。


「……明日、お母さんが来るって。向こうは台風の影響で、船も飛行機も止まってたらしくて」


少しだけ首を動かして、遥の方をチラリと見る。
だけど視線を合わせる事が怖くて、すぐに視線を俯かせコクリと小さく頷いた。

父の転勤先は、沖縄だ。
旅行に行って以来沖縄が大好きになった母は、いつか住みたいと言っていた事もあり、父の転勤先が沖縄だと知ると子供のようにはしゃいでいたのを思い出す。


……そっか。来てくれるんだ。


少しだけ、今の現状を知られる事が怖くもあるけれど、そろそろ私も限界だ。母に話して思い切り泣きたいと思った。


それからまた少しだけ顔を動かして、個室の棚の上に置いてある果物やお花に目を向ける。

するとその様子を見ていた遥が、小さく笑って補足した。


「それは、なっちゃんの会社の人達がお見舞いに来た時のだよ。一時間くらい前までここにいたんだけどね」


遥の言葉に、壁に掛けてある時計を見る。
外が暗い事もあり、今は夜の八時過ぎのようだ。

「……そっか」と私が小さく呟くと、遥が「山下さんに物凄い顔で睨まれた」と苦笑いを零した。

……優香の事だ。

まだ彼女には何も話せていないけれど、勘のいい彼女は既に察しているのだろう。

心配を掛けてしまった事を申し訳なく思う反面、優香が味方でいてくれているのだと感じ取れて、少しだけ口元が緩んだ。