「なっちゃーん!ご飯準備出来たよー!」
「はーい、今行くー」
洗面所で歯磨きを終えて顔を洗った私は、タオルで顔を拭きながらキッチンから聞こえる遥の声に答えた。
───あれから一年。
ストーカーだと怯えていた彼と、私は半年後に結婚し、今は結婚して半年が過ぎた。
どうして彼と、結婚しようと思えたのか。
それは───、
「なっちゃん見て見て!目玉焼き焦がしちゃったから、卵焼きにしたんだけどね、今日はすっごく綺麗に巻けたんだよ!」
遥が嬉しそうにニコーッと笑って、卵焼きの乗ったお皿を斜めに傾けて私に見せて来た。
そしていつもの如く、私から褒められるのをまるで犬が尻尾を振って待っているかのように、キラキラとした表情で待っている。
外で仕事をしている時の遥からは、想像も出来ない程の甘えっぷりだ。
前に何度か、彼が仕事をしている場面を見掛けた事があった。
その時の彼は、まるで今とは別人で。
部下のミスの尻拭いをさせられていた彼だったけれど、キビキビと指示を出しては自分もテキパキと仕事をこなしていて、でも絶対に部下を感情的に怒ったりはしていなくて、それどころかフォローを入れつつ励ましていた。
だから彼は、沢山の部下に好かれているのだ。
凄く、尊敬出来る人だなと思った。
でもそんな彼が、一度だけ感情を剥き出しにした事があった。
───……私が別れを切り出した時だ。