「あ、桃ちゃんお帰りー…って、どうしたの?」
ココアを握りしめて泣きそうな顔をした私を見て、食堂で待っていた郁人くんは目を見張る。
瞬きしたら涙がこぼれてしまいそうで。
口を開いたら、泣いてしまいそうで。
何も言えずに首を振る私の頭を、郁人くんはポンポンと撫でた。
何も聞かないで、頭を撫でてくれる。
さすが、女の子の扱いに慣れてるなぁなんて、やけに冷静に考えてしまった。
「ごめ……今日、帰ってもいいかな…」
「うん、いいよ。
1人で帰れる?送って行ってもいい?」
「ううん、1人になりたいから大丈夫」
「そっか。気をつけてね」
いつもヘラヘラ笑っているくせに、急に真面目な顔をして優しく微笑む郁人くんに、ありがとう、と告げて食堂を出た。
こんな日に限って夕焼けが、笑っちゃうくらい綺麗で。
茜くんに見せたいな、なんて思ってしまって、そんな自分が可笑しくて笑ってしまった。