「うーん……わかるようなわからないような…」
ふたりで顔をつき合わせて、ノートを読んでいると。
「…あ、茜くん」
食堂の前を通った茜くんと要くん、そして特進科のみんなが視界に入って、思わず顔を上げる。
そこには、もちろん雪音ちゃんの姿もあって。
つやつやの黒髪ボブをなびかせて歩く雪音ちゃんは、遠くから見てもため息が出るくらい綺麗だ。
…そういえば今日、茜くんに会ってない。
放課後になってすぐに郁人くんと食堂に来てしまったから、特進科に行くタイミングを逃してしまった。
…喋りたかったなぁ。
今話しかけようと思ったけれど、楽しそうに笑う特進科のみんなを見たら、あそこに入って行く勇気は出てこなかった。
茜くんの隣にはいつも要くんがいたのに、今日は隣を歩くのは雪音ちゃんで。
それだけ、なんだけど。
それだけのことがどうしても、私の胸を苦しめた。
「…桃ちゃんってさ、有村のどこが好きなの?」