「俺、クラスで1番頭いい女の子にノート借りてきたんだ」

「えっ、それは頼もしい…!」



放課後の食堂は、大混雑の昼休みと比べると、全く違う場所みたいに空いている。

適当にふたり掛けの席に座って、ペンケースと教科書を取り出した。



「さすがに俺も留年はしたくないから、今回は頑張らないといけないなぁ」

「…本当に留年しちゃうのかな。嫌だなぁ…」

「はは、しないために勉強するんでしょ」

「うん…」


渋々シャーペンを取り出して、教科書の練習問題を解こうとするけれど、問1の(1)からもう全然わからない。



「…ねえ、郁人くん」

「ん?」

「あの…ベクトルってなんだっけ?」

「うーん、なんだっけね」




……これ、大丈夫なのかな。
わからない人が2人集まっても、わからないままなんじゃ…?


「待ってね、ノート見るから」


郁人くんが借りてきたというノートをパラパラとめくって、あった!と私に差し出してくれる。

ノートには小さくて可愛い女の子らしい文字で、ものすごく綺麗に数式が書き写されていた。