中学を卒業して自分を変えるためのきっかけでもある高校入学。

自分に似合う髪形を探してみたり、
コンタクトに変えてみたり……。

しかし、結局は中学の頃と何の変化もないまま、入学式を迎えた。
他の女の子たちとは、もともと持っているものが違い、
何より、変わる勇気と自信が私にはなかった。

入学して1か月ほど経つと、クラスの中心グループが決まっていき、
そしてもちろん、そのメンバーは可愛くてスタイルのいい女の子ばかりだった。
ただ、無理をしてまであの中に入りたいとは思えない。
他人が聞けば負け惜しみにしか聞こえないかもしれないけれど。



4限の授業の終了を報せるチャイムが鳴ると、
生徒はそれぞれのグループで昼食をとり始める。

「蛍、一緒に食べよ。」

そう私に声をかけてきたのは、「浅井 千穂(あさい ちほ)」。
入学してクラスが決まった時、後ろに座っていた彼女が声をかけてくれたのだ。
高校生になって初めて、
千穂と友達になるきっかけを与えてくれた『秋風』という苗字に感謝した。

『うん。』

そう返事して机の上に広げていた教科書たちを片付けてスペースを作り、
私たちも昼食をとり始めた。

「蛍、もう決めた?」
『何が?』
「言うと思った、部活よ。今週末が入部希望届提出〆切でしょ。」
『あぁ……、すっかり忘れてた。』
「候補は?」
『ないかな……。』

私たちが通う高校は、1年生は部活に必ず入部しなければならない、という決まりがある。
様々な部活の見学に行ったものの、未だに決められずにいた。

「演劇部は?」
『……見学に行けてない』
「なんで、気になってるんじゃないの?」
『向いてないかなと思って』
「入ってみないと分からないでしょ」
『うーん、まぁそうなんだけどさ……』
「とりあえず、見学だけでも行ってみなよ。それから決めたらいいんじゃない?」
『……そうしてみる』

もともとミュージカルや舞台観劇が好きなこともあり、演劇部に興味があったのだ。
ただ、観るのと実際に舞台に立って自分が演じるのとでは大違いで、
ましてや経験がない自分が見学に行ってもいいのだろうか、という思いがあり、
見学にすら行けていなかった。

(でもまぁ、千穂の言うとおり、実際に見学に行ってみないと分からないか……)

千穂の言葉に背中を押され、私は、放課後、演劇部に見学を行くことに決めた。