「あ゛あ゛〜疲れたっ!!」

「そりゃあ、、はぁ、はぁ、あんだ…け、飛ばし、たらなぁ。 」

「千紘の方が疲れてるじゃん!!」

「俺は、はぁ、はぁ…お前と違って、体力馬鹿じゃねぇん…だよ。」

「体力馬鹿じゃないし。」


体育のマラソンが終わり、水を一気飲みする。

喉に伝ってくる水の冷たさが心地良い。


自分で言うのはなんだが俺は体力のある方だと思う。
隣で死にかけている千紘は俺のペースに着いていくのは無理だと言った。
もちろん千紘だって体力は人並み、いやそれ以上にはある。


「別に、無理に俺のペースに着いてこなくたって…。」

「お前に負けるのは屈辱的だろ。」

「そうですかっ!」


たく。千紘は何の意地を張ってるんだか。

階段を上りながら千紘と話していると上から綺麗な女性が大きなダンボールを抱え降りて来た。


音楽の九重綾華(ココノエ リョウカ)先生だ。


「あの…持ちましょうか?」


俺がそう聞くと彼女は震える声で


「だ、大丈夫…だよ!」


と言った。


そんな風に言われて、はいそうですかってなる訳が無い。


「…。」


俺は無言でダンボールを彼女の手から取る。


「あっ、」

「こう言うのは男に任せてよっ!先生?」

「…ありがとう、八坂君。」


彼女は少しだけ困った顔をしたが、その後にっこりと笑ってそう言った。
栗色のふわふわした髪の毛がふわっと揺れる。
ほんのりと石鹸のいい匂いがした気がした。


「いえ。あ、ごめん。千紘、先に行ってて。」

「俺も持とうか?」


千紘はそう聞いたがダンボールはひとつしかないし、俺は先程も言ったように力のあるタイプだ。

こんなの余裕で持って行ける。


「大丈夫。ありがと。」

「了解。」


そう言うと千紘は階段を上って行った。


「これ、どこに持っていけばいいの?」

「あっ、えっと音楽準備室!」

「ってどこだっけ?」


生憎、俺は音楽選択ではないため音楽室の場所を把握していなかった。

うちの高校では音楽選択と美術選択と書道選択があり4月にアンケートを取って決められた。俺はどれでもいいに丸をしたら、1番人気のな…人の少ない書道にされた。


確か天空も千紘も音楽選択だっけ。


「1階の端っこ。本当ごめんね、変わろうか?」

「大丈夫だよー!」


では何故、音楽選択じゃない俺がこの先生と知り合いかと言うと…特に理由はない。

確か美人の先生がいる!とか言ってうちのクラスの連中と九重先生に話しかけに言ったのがきっかけだった気がする。見かけ通り優しくておっとりした話し方で何人かは鼻の下を伸ばしてたっけ。

それから何故かちょくちょく話すくらいの仲にはなったんだっけ。


「八坂君は優しいね。きっとモテモテでしょ?」

「別に?そんな事ないよー?」

「ふふ、謙虚ね。」

「俺、恋とかあんま興味ないし!」

「そうなの?てっきり…いや、なんでもないわ。」


あれ、この反応誰かもしてたような…。


てか、先生の方がモテるでしょ。

真っ白な小さな顔に零れるくらい大きな瞳。まつ毛なんかめちゃくちゃ長くて。小さな口はきゅっと結ばれてて、ほんのりピンク色で。

なんて言うか守ってあげたくなる女性って感じっ!


「ここよ、鍵開けるからちょっと待ってね。」


彼女が鍵ホルダーから鍵を探す。

おっちょこちょいな先生はその鍵ホルダーから探すだけでも時間がかかるらしい。


「えっと…はい、開いたよ!」

「失礼しまーす。」


準備室に入る。6畳くらいしかない小さなスペースに沢山の資料が山ずみになっている。


「ここに置いてもらってもいいかな?」

「おっけー!お安い御用〜♪」

「本当にありがとうね、助かったわ。」

「全然?」

「そうだ!お礼と言っては何だけど…」


先生は小さな机の上に置かれたお菓子の缶を開ける。中には小さな飴玉が沢山入っていた。


「これ!良かったらどうぞ?」

「え?まじ?ラッキー!ありがと!!」


俺は黄色の飴を手に取った。


「それはね、レモン味!」


そう言って先生は満足気に小さく笑った。


「そう言えば八坂君…」


キーンコーンカーンコーン


「んー?先生何?」

俺は袋を開けながら聞く。

「いや、何でもないわ。それより大変!早く戻らないと!」

「えー別に大丈夫だよー。」

「だーめっ!教室に行ってください。」


俺は少し不貞腐れながら準備室を出た。

そう言えば、先生は最後に何を言おうとしたんだろう。